2012年12月18日火曜日

第4回俳句集団【itak】講演会抄録『猟夫が語る北海道野生の今』








第4回 俳句集団【itak】 講演会

「猟夫(さつお)が語る北海道野生の今」

高橋 千羅志



 2012年11月10日・道立文学館

 

 4回目となる【itak】は11月10日、札幌の道立文学館(中央区中島公園)で行われました。句会の前に行われる恒例のイベントでは、ハンター歴40年になる札幌の高橋千羅思(ちらし)さんが「猟夫(さつお)が語る北海道野生の今」と題して講演しました。高橋さんは、札幌の俳句グループ「北舟」のメンバーとして活動する一方で、狩猟や山登りなどを通じて北海道の自然、動物を見続けてきました。増え続けるエゾシカ、札幌など都市近郊にも姿を現すようになったヒグマなど北海道の野生動物について語った高橋さんの講演内容を詳報します。
 


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 「千羅思(ちらし)」というのは俳号ですが、北舟を主宰している吉田類さんから付けてもらいました。どうしてこんな名前かと言いますと、みんなで集まったときに、スーパーのチラシを見ながら句を作ったんです。それが面白いということで「ちらし」という俳号をもらいました。

 

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 ぼくは20歳になったときに狩猟免許を取り、40年にわたりハンターをしています。ハンターというと「野蛮」と偏見の目で見る人もいますが、社会的な貢献もしています。自然の生態系が崩れていることもあり、今年は札幌市でもヒグマの目撃情報が156件にも上っています。目撃数から考えると、札幌近郊には約20頭前後が生息していると言われます。
 

では、どうして札幌でヒグマの目撃情報が増えているのか? 昔は春グマ、つまり穴から出てくるクマを撃って、駆除していました。それを辞めてから増え始めているんです。昔のクマは、親から子、子から孫と「人間のそばに出たら恐ろしい目に遭うからダメだよ」と伝承されてきました。しかし、駆除を辞めてから頭数も増え、親も子も人の怖さを知らずに〝好奇心〟で人間のところに出てくるんです。
 

人のところに出てくるクマは、ほとんどが、この好奇心です。人を襲うクマではありません。追い払うと出てこない。知床と同じ問題ですが、札幌近郊でもクマの頭数が増え、密度が濃くなっています。行くところがなくなる。そうして、はじき出されたクマが都市部に出てきています。好奇心だけなので、こうしたクマは防除隊が追い払っています。本当は無線機を付けて放せば、行動を把握できるのですが・・・。


今年の春、藻岩山に現れた熊が射殺されましたが、札幌市や僕が所属している猟友会にも批判が来ました。ぼくらは日頃、市民の命を守るため訓練しています。円山動物園ともタイアップして「動物が逃げたときにはどうするか」などの訓練もしています。ヒグマに対しては追い払うのが基本です。しかも駆除は勝手にできません。許可捕獲です。警察から発砲して良いという許可がないとできない。市街地の定義は、家や畑があるところで半径200㍍以内に10軒あるところ。勝手に発砲することはできません。今回は危ないから発砲してほしいということで駆除という方法を取りました。
 


ぼくも山に入ってクマに襲われそうになったり、命拾いした危ない経験があります。ただ、基本的にクマは人間の存在を気付かせれば、向こうから去ってくれます。たまたま居所が悪かったり、子連れでいる場合は襲ってきます。行動範囲はメスで数十㌔、オスは100キロ以上。札幌から積丹まで行って戻ってきたりします。

 

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エゾシカも爆発的に増えています、僕は昭和50年くらいに鉄砲持って、40年くらい経ちます。昔はシカも少なかったので、カモ猟が中心でした。エゾシカ猟は日高、道東まで行っていました。毎週行けないから、正月とか休みが重なったときだけで、しかも野球ではないですが、(捕獲)確率は3割も満たない状態。当時はメスは撃ってはいけませんでした。
 

ぼくらの師匠にあたる岩内の猟師は一人で何十匹も捕っていました。昔は食うために山に入った。猟師ですから。山に入って、毛皮、肉を売って、商売していた。生きるためにやった。


エゾシカは今、道内に65万頭いると言われていますが、これははっきりしない数字です。もっと多いかもしれません。生息調査は「ライトセンサス」という夜中にライトを使ってシカの目を見て調べています。昨年度は13万5000頭を捕獲しましたが、農業被害は60億円と報告されています。昔は狩猟が主な目的でしたが、今は駆除が6割以上を超えています。許可をもらっての駆除です。


しかし、駆除は後手後手にまわっていると思います。もともとハンターは自分の食べる分しか捕らない。食べきれないものを捕ってきてもしょうがないから。だからシカの数も増えてきたと言えます。
 

駆除といっても、(仕留めたシカを回収する)残滓ステーションをたくさん作ってくれればよいのですが、あまり多くない。減らせ減らせといっても、ハードとソフトがアンバランスなので駆除が進まないんです。捕獲するとお金も出ますが、市町村で制度がバラバラです。やはり道が一括して管理しないと絶対に減らないと思います。
 

ハンターはそれぞれ信念を持っていますが、ぼくは親子連れのシカは撃たないようにしています。春先の駆除では、乳飲みのシカは親が殺されたら生きていかれないからです。ぼくは一人で山に入って、どっちが先に見つけるかという狩猟をしています。クマもそうですが、野生動物に先に見つけられると逃げられます。知恵比べのようです。仲間で狩りをする人もいますがぼくは一人で、しのび狩りするのが好きですね。

 

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夜間は見ることできませんが、ここ中島公園にも野生のキツネ、狸、ミンクなどがいます。夜、暗視スコープさえもあれば、けっこう小動物が居ることが分かりますよ。去年、札幌のある場所でキツネが繁殖して困るという相談を受け、捕獲したこともあります。鉄砲で撃ってくれと言うが、そうもいかないので、箱穴で捕獲しました。箱穴も免許持っていないと捕獲できません。野菜を作っているけど、食べられて困るとのことでした。

 

結局、6頭のキツネを捕獲し、感謝されました。食物連鎖の中で人間は頂点にいます。生きるため、食べるために駆除するのは仕方ないと思います。しかし、ただ殺せばいいというだけやっているわけではありません。ハンターも市民の安全を守るために努力しているわけです。(了)



☆抄録:久才秀樹(きゅうさい・ひでき) 北舟句会

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