2014年2月24日月曜日

照井 翠 句集『龍宮』 一句鑑賞 ~鈴木 牛後~


句集『龍宮』の一句鑑賞

鈴木 牛後
 


震災の鎮魂の句集である「龍宮」。前半はまさしく被災の句群だ。一ページに一句、まるで鉄の棒のように句が置かれている。これらの句群について語る言葉を私は持たない。テレビ画面でしか震災を知らない私が、立ち入ることのできない領域がそこにはある。

ページが進むにしたがって、作者の心にも少しずつ変化が訪れてくるようだ。やや穏やかな心情を詠んだ句と、フラッシュバックする被災の句とが入れ替わりながら現れる。私も読者として、作者の寛解を、ごく一部ではあるが追体験している気持ちになった。


 今生のことしのけふのこの芽吹         照井 翠

震災から一年が経った春の句。新しい一歩を踏み出そうとしている作者の心持ちが窺われる。あのとき死んでいても不思議ではなかったという思い。それが「今生のことしのけふの」という措辞にあらわれている。「けふ」がどれだけ価値があることか。作者は日々それを感じているのだろう。

掲句は「真夜の雛」と題された章の冒頭の一句である。この題は、《亡き娘らの真夜来て遊ぶ雛まつり》という句から取られている。《半眼に雛を並べゆく狂女》という句さえある。その中で掲句を冒頭に持ってきたというところに、読者はほっとするのである。作者を、そして私たち一人ひとりを包む芽吹きの何と愛おしいことか。
 


☆鈴木牛後(すずき・ぎゅうご 俳句集団【itak】幹事 藍生)


照井 翠 句集『龍宮』 角川書店
http://www.kadokawa.co.jp/product/321306000185/




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