2014年5月30日金曜日

瀬戸優理子 『結婚指環』 鑑賞 ~久才 透子~


この一連の作品の題名は、『結婚指環』。
結婚してからの心の有り様が感じられる作品群になっている。

作者の優理子さんが、東京から北海道に嫁いできたことを知っているからかもしれないが作品の中に、見知らぬ土地に嫁いできた気持ちが現れているように思った。


 遠花火ぽかんぽかんと舟を漕ぐ


花火には、華やかな一面、一瞬にして消えるとゆうことから、はかない印象もある。
見る人の心のあり方で、受け取る印象が違うのではないか。

遠花火。過去となった娘時代、都会の喧騒。
遠くなってしまった以前の生活を、この季語に託しているように思う。
ぽかんぽかんとゆう、のんびりした印象のオノマトペからは、後ろ向きでもなく、頑張りすぎるわけでもない、自然体な生き方をしている彼女自身を現しているように感じる。
自分で決めた暮らしの中に、静かに身をゆだねているのだ。

そんな気持ちは、


 夜濯ぎの結婚指環泡立ちぬ

 門限に帰りそびれし寒三日月


これらの句にも感じる。

誰もが、暮らしの中のふとした瞬間、
自分の人生がどんどんすすんでいるのを実感することがあるだろう
感傷的ではなく、もちろん後悔しているわけでもないが、
以前とは違うのだ、という当たり前のことに気づく瞬間。

春夏秋冬、朝昼晩。
結婚していても、していなくても、それは誰もに訪れるのだろうけれど。
この一連の作品を読んで、自分自身に訪れた、そんな瞬間を思い出してしまった。

優理子さんはきっと、来年も、10年後も、20年後も、自分自身を静かに見つめながら、
ぽかんぽかんと舟に乗っているに違いない。



☆久才透子(きゅうさい・とうこ 俳句集団【itak】幹事 北舟句会)



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