2014年10月21日火曜日

『ムッシュが読む』 ~第15回の句会から~ (その3)


『 ムッシュが読む 』 (その3)
 



~第15回の句会から~
 


恵本 俊文

 


 夜の海月独りの時を持て余し       田口三千代

寄る辺なく海を漂う海月。日があるうちは海中の景色も楽しめようが、暗い夜となると、さぞ所在なかろう。潮に乗って長い旅に出たものの、独りの夜を持て余すことはままあるだろう。気ままな旅は最高の贅沢だと思うが、秋のそれはまた、寂しくもある。
「持て余す」でもいい気がした。

 時間切れのランナー詰めてバス秋暑  佐藤   萌

マラソンは、一定の時間以内で走らないと、途中でもバスで回収されてしまう。完走の願いがかなわなかった人たちの空回りした思いで溢れかえったバスの車内は、心と肉体の限界との狭間で揺れる。さぞ暑かろう。人生にも時間切れはある。回収されないよう過ごしたいものだ。

 立待月かばんの闇をまさぐりぬ      瀬戸優理子

ためらいながらそっと出た月の下で、大きくもないかばんの中の探し物は何だろう。心許ないあかりに、なかなか見つからないのではないか。いや、もしかすると、かばんの中をまさぐっているのは月あかりそのもので、探し物など初めからないのかもしれない。こっそり覗かれたかばんの中には、見られて困るものは…特にないからいいか。
 
 
(最終回に続く)



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