2015年6月25日木曜日

寄稿:俳句集団【itak】イベントレポート『広場の可能性を信じて』


俳句集団【itak】イベントレポート

広場の可能性を信じて

黒 岩 徳 将
 
2015.05.09
 
 
 岡山から俳句集団【itak】のイベントに参加した。新千歳空港に降りてすぐに、湿気のない風が吹き、心地よかった。札幌では5月に八重桜が満開であったことに少々の違和感を覚えつつも、開放感に身を預けた。若手俳人として注目を集める堀下翔が、石田波郷新人賞を受賞した時のスピーチで「本州にきて初めて曼珠沙華も木犀も見れました」と言っていたが、北海道という地で俳句をすることの違いは日々の仔細な出来事に現れるのだろうと推測する。

 イベント開始の5分前に会場に着いたが、すでに客席はほぼ満員であった。いったいどういう人が集まっているのか、隣に座った人に聞いたところ、北海道の俳句協会(三協会なのかそうでないのかは定かでない)の人もちらほらいるそうで、参加者同士が顔見知りで挨拶を交わしていたのが印象的であった。【itak】がイベントを繰り返し、集まることのできる場所を作ってきたことの現れであろう。

 第二部の句会ライブは文字通り「ライブ」なので、第一部のレポートと感想を綴りたい。


◆第一部五十嵐×夏井のトークショー

※五十嵐・夏井の発言は聞き書きです。
 五十嵐と夏井は前日も会合があったらしく、その続きで話をするというものであった。
 二人は結社「藍生」に所属という点が共通しており、入会は少しだけ五十嵐の方が早いそうだ。二人は自分たちの「100年俳句計画」「【itak】」
といった独自の活動を、東京からはなれた「わがままな・外様的」なものと自称した上で、二人の師にあたる藍生の主宰、黒田杏子が二人の活動を大事にしている、ということをとりあげた。

夏 井 「やりすぎたらすごい怒られるんですけどね。私は人生の中で怒られて慣れてますけど。松山というものすごい保守的な地層の中であがいている時に杏子先生が精神的に支えてくれた。」


五十嵐 「松山でいつき組を作ったり、紆余曲折を乗り越えて俳句甲子園も18回になりました。」


夏 井 「結婚して子どもができてる子が俳句甲子園に来るとおばあちゃんになった気がする笑 18年ってすごいですね。」


五十嵐 「あの頃の俳句甲子園の俳句と、同じ子が出場しているわけじゃないのにレベルが上昇している。」


夏 井「10代の恐ろしさは、俳句甲子園の日程は3日間、試合自体は2日間なのに、その2日の間で審査員の言葉などを吸収して見違えるように伸びる」


 参加者は7割以上が俳句経験者であったことから、俳句甲子園の存在も当然のように知っているようだったことが驚きであった。先日、私が某俳句大会の観覧に行った時も、シンポジウムにて話題が俳句甲子園になり、会場の多くがその存在を知っていると手を挙げていたことから、興味関心の高まりを感じている。ぜひ、Youtube などで公開されている俳句甲子園の映像を一人でも多くの方に見ていただきたい。

 話題は夏井の出演するテレビ番組「プレバト!!」に移る。
夏 井「50代の方から道で声をかけられるようになりました。あとは子ども。『俳句スゴいと思います。お母さんはファンとか言いますが、そんなファンとかうわついた言葉ではなく、尊敬してます』とか言うんですよね。」

五十嵐「最初は俳句好きな人だけが見ているかと思ったら、そんなことないんですよね。始まったときにはこんな続くと思っていなかった」

夏 井「私もそう思ってた。一回こっきりの番組だと思ってたら収録終わったらスタッフがバーッ…と。俳句は一回も休んでないんですよね。なんでだろ…と思ったら日本語という共通理解があるからなんですよね。思ったほどはえらい先生からクレームがこない笑」

五十嵐「俳句を始めたいけど入門書を読んでもよくわからない人にとても良いと思う。俳句ってそんな狭くないぞと思う人は絶対いる。文芸なんてダメなものはない、というバラエティにも関わらず正論で切り込んでくる人はいると思う。」

夏 井「そうでしょうね。あれだけ俳句に関係のない人がこれだけ興味をもってくれたことと、一部の人たちの批判は、全然違うもので、気にする必要が無いと思った。閑古鳥の鳴いていた地方の俳句の先生が入会希望者が増えた、とか率直に言ってくださったことが、嬉しかったりする。今までの俳句運動が新しいフェーズに来た。私の活動の原点・すべてが「俳句の種まき運動」であるが、まさかいままでこつこつこつこつ蒔いて横ばいでじわじわきていたものがバコーンと!
 自分の人生のどこかに俳句と関係ないと思っていた人が、否応無く見る、そして面白いと思う。あの番組で心がけていることは二つ。難しくない言葉で語ると、興味のフックがかかってくる。そして、どんなへたくそな句も、その人が何を表現したかったかを絶対に変えない。なんとかしてどうしようもないへたくそな句を何かの形で実現させる。五十嵐さんが言ったように、入門書を読んだところでわからない。歳時記買ったけど感じがわからない。あのハードルが私たちが高いということがわかった。そういう人たちがプレバトを見て小さなハードルを超えてくれる。」

 夏井はテレビのバラエティ番組という媒体で上記を実践したが、次に俳句に興味を持った人に引きつけるために、【itak】の定例イベントや雑誌の添削指導などについても同様の事が言える。添削については、神野紗希もインタビューで近いことを語っている。指導者の技術を持ってすれば、初心者の俳句を佳句にすることはそれほど労を要さないかもしれないが、「作者の言いたいことが稚拙であったとしてもそれが輝く形で添削する」には並行した技術が必要である。
 また、五十嵐と夏井の活動における二人の共通見解としては、「結社の存在は否定もしていないし、丁寧に鍛えてもらう、自分の俳句を向上させていくには結社という方法は素晴らしいと思う。俳句としての『フラットな広場』である【itak】やいつき組に集まってくれた人に対して、転勤になった方に対してなど、どこかの結社へ紹介するようなこともやっている」というものであった。

 結社をめぐるさまざまな課題については別のところで書き尽くされていることだと思うので、ここで詳述することは控えるが、印象的であったやりとりのみ紹介する。

五十嵐「結社だけでやっていける状況ではなくなっている」

夏 井「俳句甲子園を卒業したりしたような凄い勢いのあるOBOGがなぜ積極的に結社に入らないのか、もちろん入っている子達もいるけれど。そういう状況を、若い子達のせいにしてはいけないと思う。何かもっと私たちの世代が、魅力的な活動をしていれば面白いことには飛びついてくるわけですから。そういうことを大人たちが見せて、『俳句やっているあそこの大人たちかっこいい』とか俳句やっている大人のモデルを私たちが見せて行かないといかない時期になっているんじゃないかと思うんですね。」


 このような対談をぜひ20代の俳人にも聞いてもらいたいと思い、イベントレポートを書いた。筆者は結社に所属していないので、句会にいけばあちこちで「なぜ若い人は結社に入らないのか」、という質問を受ける。個人的な見解としては、大きく分けて①お金・しきたりなどのハードルが高い ②自分の句が誌面に掲載されることに対しての喜びをそれほど感じられない の2点ではないかと思っている。若い人だけでなくとも、いきなり結社に入るのはちょっと…という人たちに、入り口となる「いつき組(100年俳句計画)」や「【itak】」のような場所がモデルケースとなり、47都道府県で広がれば面白いのではないか、そのような妄想を一人で楽しんでいる。

くろいわ・とくまさ 岡山県在住 俳句集団「いつき組」・現代俳句協会会員


 ※ご寄稿頂きこころより感謝いたします。俳句集団【itak】一同

 

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